戸田奈津子さん

ちょいと古いネタになりますが,字幕翻訳家の戸田奈津子さんの誤訳騒動が起こっていたようです。『オペラ座の怪人』の字幕です。
詳しくは↓のサイトなどを見て下さい。

映画「オペラ座の怪人」戸田奈津子の字幕に物申す!←クリック
字幕改善連絡室←クリック

戸田さんは,字幕の場合,字数が限られるし,ある程度言葉を端折ったり意訳になってしまうのは仕方がないという見解を示しています。

それに対して,上記サイトの人々は,そんなレベルではなく,戸田氏の翻訳では意味が違ってしまっており,映画を壊していると批判しています。


この問題は非常に難しい。

翻訳には大きく分けて,実務翻訳(産業翻訳・ビジネス翻訳)と文芸翻訳(出版翻訳)があります。

実務翻訳とは,例えば,ビジネス文書の翻訳とか機械の取扱説明書の翻訳などで,そのポイントはできるだけ正確に原意を表現することにあります。そこには脚色などは全く必要なく,直訳で事足ります。もちろん文書を求める人のニーズにしたがってより読みやすい文章にするということはありますが。

それに対し,文芸翻訳は非常に微妙な存在。映画の字幕もこちらに近いものだと思われます。こちらでは翻訳者の文学的素養も問われてきます。1つの文学として完成された作品を作らなければなりません。翻訳された小説などは,原著者の作品であるとともに翻訳者の作品でもある。読者は翻訳者の作品という部分を忘れがちですが,実はこちらの方が小説の善し悪しを決定する大きな要素だったりします。

では,映画はどうか?言葉のみの小説であるならば,翻訳小説は翻訳者の作品であるとの見方も可能なのですが,映画の場合は,字幕は作品を形作る要素の1つにすぎません。つまり,映像との整合性が非常に重要になってきます。

戸田さんを批判するものとして,この整合性がよく採り上げられています。映画の登場人物の表情と字幕が合っていないと。これは確かに問題があるかも知れません。戸田さんの作品だったかはわかりませんが,私も映画を観ていてたまにこの種の違和感を覚えることがあります。

戸田さんはもの凄く忙しくてしっかり映像チェックまでできないのかも知れませんが,これからも日々進化し,是非とも生涯現役で頑張って欲しいです。

※おまけその1

戸田奈津子さんのインタビュー記事←クリック

字幕翻訳者の独り言←クリック

※おまけその2

文豪の名訳

井伏鱒二が唐代の于武陵が作った五言絶句(勧酒)を翻訳しました。
別れの杯を交わす場面を歌った詩ですね。

勧 君 金 屈 巵(君にこの杯を勧めよう)
満 酌 不 須 辞(なみなみとついだこの酒を断らないでくれよ)  
花 発 多 風 雨(花は開けば風雨にさらされる)  
人 生 足 別 離(人も生きれば別れがあるものだ)


コノサカヅキヲ受ケテクレ
ドウゾナミナミツガシテオクレ
ハナニアラシノタトエモアルゾ
「サヨナラ」ダケガ人生ダ