あったはずのあのシーン

月刊誌『創』7月号に漫画家の浦沢直樹氏のインタビュー記事が載っています。浦沢氏のある言葉に非常に共感しました。

浦沢氏は現在「プルートウ」という作品を描いています。この作品は故手塚治虫氏が「鉄腕アトム」の中で描いた物語の1つですが,アトム生誕年である去年,記念企画として浦沢氏がリメイクをすることが決まったのです。

この大事業に取りかかる前,浦沢氏は当然鉄腕アトムのアニメや漫画に目を通しました。ところが,浦沢氏が憶えている数々のシーンが欠けているのです。アニメも漫画も思いのほか短い。一体どうしたことでしょう。

実は,浦沢氏の心に残っていた数々のシーンは元々存在していなかったのです。一体そのシーンはどこからやってきたかというと,それは読者である浦沢氏が自分で創ったシーンなのです。

読者である浦沢氏は,行間を読み取るというか,漫画ならコマ間を読み取るとでも言うような作業を無意識のうちに行っていました。さらに,漫画を読み終わったあと,その物語は浦沢氏の心の中で成長を続けていたのです。

こういうのって想像力が豊かな浦沢氏に限らず,誰でも行っていることのような気がします。私も昔読んだ漫画や小説などを読み返して同じような感覚を味わったことが何度もあります。

1つの漫画であっても,人によって様々なシーンが創られている。だから,あるシーンについて友人と語り合ってもどうも話がかみ合わないことがしばしば起こるんですよね(笑)これは,小説や映画にも言えるかも知れません。

なんだかとっても面白いです。